カテゴリ「トラッド」の記事

キキオン『夜のハープ』

 アコーディオンやらブズーキやらコンサーティナーやらその他いろいろ民族楽器を駆使した、東欧・中近東風味のオリジナル曲やらトラッドやら。異国の地、夜空の下で、語り部が楽器を奏でながらゆるゆると言葉を紡ぐような雰囲気がいい。小さなライブハウスで聴きたいなあ。

■■弦と蛇腹の夜~Quikion■■ (アーティスト公式)

みずさわゆうき『cascade』

 Kircheな人々が参加しているというので購入。

 民族風味や3拍子を多用しつつ、そうでない曲(おそらく過去作品の再録)も多い、かな?随所にちりばめられたコーラスににやりとしつつ、そっち系歌姫には珍しい中音域の声もいいなあと思ったり。正直、一聴したときはそれほどでもなかったのに、何回か聴いているうちにハマってきた。スルメだ。

 やはり好みはKirche節全開のtrack7……と見せかけて、実はtrack4みたいな3拍子多重コーラスものに弱いのです。

みずさわゆうきソロアルバム[Cascade] (試聴あり)

Erie『Prayer』

ヴォーカル兼作詞・作曲者の河井英里を中心としたユニット「Erie」のファーストミニアルバム。武沢豊とのコラボレーション。7曲の中にはオリジナルあり、セルフカバーあり、伝承歌あり。オビのコピーによると「テクノロジーとアンシェントな響きをあわせ持ちヨーロッパ的志向を感じる深遠なサウンド」とのこと。「ヒーリング・ミュージック」って言葉は正直好きじゃないんですが、そっち系が好きなら、間違いなく直球ど真ん中でハマるでしょう。
聖歌のようなアカペラから始まり、打ち込み&ピアノやストリング中心のアレンジに透明な歌声が重なっていく。多声録音の広がりもいいけど、track4のように多声じゃない歌声こそ聴かせます。表現力が分かるというか。
それからtrack5の『スカボロフェアー』、イギリスの町に伝わる歌を元にサイモン&ガーファンクルが歌ったもので、最近ではサラ・ブライトマンもカバーしているとのこと。でも私の『スカボロフェアー』初体験は、Vita Novaの『ancient flowers』収録のものなので、メロディーからしてずいぶん違うのに驚き。まあ同じ伝承歌を元にしただけで、あとの味付けは違って当然なんですが。一度聴き比べてみると面白いかも。

■□Eri Kawai on the Web□■ (アーティスト公式)
ERIE(発売元紹介ページ、試聴可)

Garmarna『Hildegard von Bingen』

 スウェーデンのラディカル・トラッドバンド4枚目のアルバム。12世紀に活躍した音楽家であり修道女のHildegard von Bingen(「ビンゲン(地名)のヒルデガルド」の意)、その彼女の曲をリアレンジしたアルバムです。国内盤のオビのコメントを上野洋子が寄せていたことから興味を持って、とかなりミーハーな動機で購入(笑)
 原曲は中世の教会音楽、それが打ち込みのリズムで始まるというのがまず衝撃。そこにギターやバイオリン、シンセが重なって、ああプログレっぽいな、と思っていると、さらにハーディ・ガーディのような古楽器が全く違和感なく融合していく。現代風トラッドではなく、トラッド風現代音楽でもない。いや私が北欧トラッドを聴いたことがないから分からないだけかもしれないけど(笑)
 そしてとどめに女性ヴォーカル。声自体が生き物のように音空間を泳いでいるような……「豊かな表現力」というのとはまた別の、不思議な存在感があります。アカペラのtrack9が圧巻。
 正直、私の聴くタイプではないはずなんだけどなあ……全体的に暗く重い雰囲気、楽器も低音に響くものが多く、ヴォーカルはいわゆるクリスタルヴォイスではない。強いて挙げれば、打ち込みリズムは時々ツボなのでそこかなあ……track5なんか、かき鳴らすようなバイオリン?とリズムが重なるところが気持ちよくて。
 自分でもハマった要因がよく分かっていないので、実は他人様に紹介できる立場でもなかったり。たぶん、プログレ好きな人には何かくるものがあると思う。

Garmarna (アーティスト公式、試聴可)

Kirche『Coloured Water』

クリスタル・ヴォイスと深遠なシンセサウンドが響き合うKircheの事実上のファーストアルバム(元はデモ曲集だったらしい)。
デモとは思えない完成度の高さにまず驚き。『Pleiades』に比べれば、そりゃ多少頼りないところはあるけど(笑)それを補ってあまりある出来だと思います。
そして、元々コピーしていたzabadakの影響が窺えながらも、この時点で既にKircheの世界を築いていたんだなと感じます。『Pleiades』と曲構成が似ていたりするのもそれ故か・・・次のアルバムではひとつ、冒険なんかもしてほしいなあとか勝手に希望。
全体的に春っぽい曲が多いかな。個人的には、track4『花降る森で』は桜の季節の昼のテーマ曲。zabadakの『桜』が「夜桜の妖し」なら、これは「春陽に舞う桜の狂気」。

kirche web~架空庭園~ (アーティスト公式)

Kirche『Pleiades』

セカンドアルバム。当たり前だけど、『Coloured Water』に比べて、Kirche独自の色が強まっている。アイリッシュトラッド色のtrack9やアジアっぽいtrack6など、芸幅が広がった感じ。
ジャケットに引っぱられているのか、全体的に澄んだ青のイメージですね。聴いていると、自分まで青く透き通っていくような。気になったら迷わずネットで試聴!

kirche web~架空庭園~ (アーティスト公式、試聴可)

Kirche『Schwartz Nacht』

 前作からさらに3年ぶりのマキシシングル。track1の力強さにただ圧倒。ミステリアスなバイオリンで幕を開け、ヴォーカルと生楽器が怒濤の展開を見せる……風景というよりドラマが見える感じ。魂持っていかれるー。
 track2はライブの定番曲ということもあり、ライブ感を大事にしたという話だけど……確かに笑っちゃうぐらいライブ感が。今までCDでしかKircheを聴いたことのない人には、あれ?という感じかも。
 そしてtrack3、ヴォーカルとアコースティックギターのみのシンプル&ショート曲。細く伸びる声に、キュッと鳴るギター。何かやけにzabadakな感じがしたのはなぜだろう。
 最近のメンバーのソロ活動や別ユニット活動などが、わりと繊細さを前面に出していたように思うので、それとの対比でよけいに力強く感じるのかもしれません。でも、荒っぽいとかではなくてあくまで美しく。Kircheとは何か、を再確認した感じです。初めての人にもお勧め。

kirche web~架空庭園~ (アーティスト公式、試聴可)

Katie McMahon『After the Morning』

 アイリッシュ女性ヴォーカリスト&ハープ奏者のソロ1作目。アイリッシュコーラスグループ「ANUNA」の元メンバーであり、ダンスミュージカル『リヴァーダンス』のリードヴォーカルも務めたりと、経歴が何かにぎやか。どっちも私は聴いたことないんですが。
 トラッドを中心に12曲。アイリッシュヴォーカル特有の浮遊感がありながら、やや甘めの声質かな。そのヴォーカルを生かしてアカペラとか、楽器の音が入っていても控えめの曲が多いです。アコースティックギターだけとかピアノだけとか。ハープとヴォーカルだけのtrack6~7なんか幽玄の美(涙)
 かと思うと、軽快なフィドルの入ったジグなどダンスチューンも数曲。いずれも、トラッドだけど素朴な感じとはちょっと違い、ものによってはちょっとクラシック要素も入っているかも。上品にまとまったアイリッシュミュージックのアルバム。

Welcome to katiemcmahon.com (アーティスト公式、試聴可)

Katie McMahon『Shine』

 アイリッシュ・ヴォーカリストでありハープ奏者のソロ2作目。トラッドを数曲交えつつオリジナル曲中心、インストを交えつつヴォーカル曲中心の構成です。
 前作『After the Morning』と比べて、よりシンプルで素朴になった印象です。ヴォーカル曲はコーラスアレンジも極力抑えて、声一本で勝負という感じ。特に前半はちょっともの悲しい曲調が多いせいか、声のゆらぎがそれと相まって、「儚さの美」のようなものを感じます。美声堪能。
 インスト曲は、ホイッスル・パイプ・フィドルといったアイリッシュおなじみの楽器を交えつつも、ハープをメインに据えたものが多いかな。やはりしっとりと聴かせる曲が多いです。かと思うと、track2や5のアイリッシュ村祭系チューン(おい)ではっと我に返ったりするんですが。
 ヴォーカルとハープという、このアーティストの売りをより前面に出した作品、といえるかもしれない。前作が春なら、今作は深まりゆく秋のイメージ。やや単調だし華やかさはないけれど、その分しみじみと聴き入ることができるアルバムだと思います。

Welcome to katiemcmahon.com (アーティスト公式、試聴可)

Loreena McKennitt『Parallel Dreams』

サードアルバム。Track4・5はケルトのトラッド、他はオリジナルという構成のアルバム。また、track3・8はインストゥルメンタルです。
全体的にしっとりケルト音楽の雰囲気を残しつつ、キーボードやマンドリンといったアイリッシュトラッドにはない楽器を取り入れ、彼女独特のアレンジが効いています。特にtrack3では、アフリカ系打楽器のリズムにフィドルが乗ったりして、ここで既にアレンジの幅を広げていたんだなあという感じ。あ、もちろん、もやがかっていながら力強いあの美声もばっちり。

Quinlan Road (アーティスト公式、試聴可)

Loreena McKennitt『To Drive the Cold Winter Away』

アイルランドやイギリスの伝統曲に、オリジナルも交えたクリスマスアルバム。
ヘッドフォンで聴いてたら、何かライブっぽい音の響き・・・と思ったら、どうやらスタジオではなく、教会や修道院でレコーディングしているとのこと。教会で聖歌を聴くとこんな感じなんでしょうか。スタジオ録りしたものにあとでエコーかけたりしているのとは違う響きです。
その響きをさらに際だたせているのが、シンプルに徹した曲作り。楽器も声の重なりすらも極力抑えていて、神々しい感じさえします。ヴォーカルもさることながら、ハープのインスト(track4・9)も澄んだ音。きーんと冷えた冬の夜にしみじみ聴くとええ感じ。

Quinlan Road (アーティスト公式、試聴可)

Loreena McKennitt『the book of secrets』

スタジオ録音もの(ライブじゃないという意味で)では最新アルバム。ケルトをベースに、自由自在のアレンジ極まれり。アジア色のtrack4が好きですな。

Quinlan Road (アーティスト公式、試聴可)

Loreena McKennitt『Live in Paris and Toronto』

2枚組のライブアルバムで、1枚目は『the book of secrets』の全曲、2枚目は今までのベスト盤的セレクションだそうな。
実は今まで、ライブアルバムって好きじゃなかったんですよ。トークとか歓声とか入っているのが嫌で、それなら原盤で聴きたい派だったんですが・・・初めて「いい」と思えたライブ盤です。迫力の生声、生演奏。1枚目なんか『the book of secrets』と曲は全く同じはずなんですが、別ものに聞こえる。

Quinlan Road (アーティスト公式、試聴可)

『ICO ~霧の中の旋律~』(テーマ曲他:大島ミチル)

プレイステーション2のゲーム『ICO』のサウンドトラック。水彩画のような美しいグラフィックと、BGMをほとんど使わず、風や水のせせらぎなど効果音を効かせた音の演出――あれ、それじゃサントラにするほど曲ないじゃん(笑) でやっぱり、全16曲のうち半分は曲というより効果音、残りも多くが1分前後の短いもので、ちょっと食い足りないかも。
で、オープニング・エンディングの2曲は大島ミチルの作・編曲によるもの。他にも数曲手がけているんですが、そっちは編曲が別の人になっています。
そして、エンディングの方がゲームのCMに使われていて、これを観て(聴いて)やられた人も多いはず。私もその一人。聖歌隊の少年による澄んだ、はかなげな声と、切ないマンドリン(?)が印象的です。郷愁をかきたてるメロディというか……うーん何て言ったらいいんだろう。ライナーノーツによると、「無国籍で中性的な魅力のヴォーカル曲」というオーダーでできた曲らしいんですが、それじゃ分かんないだろうしなあ。ううむ。
個人的にはもう一つの主役、ギター系弦楽器の方を押したい。ギター・マンドリン・ブズーキ等、数種類の弦楽器が切々と紡ぐメロディは、ゲームやってなくても心が震えちゃうと思う。もしかしたら、と思ってクレジット見たら、やっぱり渡辺等。私が弱いわけだ(涙) 案の定、全部一人で弾いてるし……
もちろん、元の曲のよさもあるんですけどね。大島ミチルといえば、NHKスペシャル『生命 40億年はるかな旅』の音楽で有名なのかな? 世界の様々な音楽の要素が感じられつつもオリジナルな作風、らしいです。いつもはわりと壮大なオーケストレーションのイメージが強くて、それには個人的にはぴんとこなかったんですよね。でも今回のは来た来た来たー!て感じ(笑) こういう少数楽器編成のをもっとやってくれないかなあ。
というわけで、上に出てきた名前に見覚えがあったら、あるいはCM観て曲が気になっていたら、ゲームやってなくても「買い」かと。

大島ミチルホームページ (アーティスト公式、試聴可)

みとせのりこ『ヨルオトヒョウホン(夜音標本)』

 ソロでは初のアルバム。過去のソロ作品をリアレンジし、影響を受けたアーティストたちから曲提供を受け、さらに自らのルーツとなる唱歌を入れたりして、バラエティに富んだアルバムとなっています。
 無伴奏ポリフォニー(というのね知らなかった(爆))から始まり、プログレ、アイリッシュ、無国籍風、ポップス……クラシカルなしっとりメロから、今までからは想像できなかったロックサウンドまでも自在に歌いこなす。クリスタルヴォイスというとか弱いイメージがあるけど、全然そんなことなく力強い。多様な曲に沿いながらも呑まれることなく、それがアルバム全体の統一感を生んでいる。まさしく「ヴォーカルアルバム」。
 曲も上記の通り、やりたい放題の濃いラインナップで個人的に大満足。「特にこの曲が好き」が挙げられないぐらいなので。強いて挙げれば、楽器少なめのtrack1とか6かなあ。でも無国籍track2とかも好きだし……閑話休題。
 ゲームの主題歌等でこの人を知ったというファンも多いと思うけど、そういう、音楽的にノンケの人(笑)は唖然とするんじゃないかと微妙に心配しつつ、これを機にそっち方面にハマるとよし。逆に、この歌い手知らないけど作曲陣が気になる人たちかも、という人にも勧められると思います。

ヨルオトヒョウホン:::top (アーティスト公式内紹介ページ、試聴可)

吉岡忍『breith』

ソロデビューアルバム。この人は元々COSA NOSTRAというバンドのヴォーカルだったらしいけど、その時のことはよく知らず。私はICE BOXという企画ものの時限ユニットでヴォーカル聴いて、声が気に入って買ったクチ。その後何枚かアルバム出していなくなっちゃったけど、どうしてるのかなー。
このアルバムのコンセプトは「子守歌」。日本からは「竹田の子守歌」、その他イギリスやロシア等の民謡を現代風にアレンジ、カバーしています。オリジナル曲もいくつか。全体的にのんびりまったり牧歌的で、確かに眠くなるかも(笑)
アレンジはアコースティック、といいながらシンセ入ってますが……リチャード・クレイダーマンっぽいピアノと、それからマンドリンが印象に残る。その他ウクレレやケーナなんかも混じっていて、何かいい感じなんですよ。
そこに女声ヴォーカル。いわゆるクリスタルヴォイスではない、どちらかというと低めの声。声量豊かに聴かせるタイプでもなく……なんというか、つぶやきのような、力の抜けた柔らかいヴォーカルです。なぜか好きなんだよなーこの声。
このアルバム、今ならヒーリングブームで少しは注目されたんじゃないかなあ。もったいない。万人にお勧めって感じではないけど、女声ヴォーカル&トラッド(フォークも?)好きならあるいは。

Vita Nova『ancient flowers』

吉野裕司を中心とする不定形ユニット、Vita Novaのファーストアルバム。オビのキャッチコピーにある「古楽ポップ」って、こういうものなのかあと私には感じることしかできませんが。古今東西の音楽(半分以上は原曲を知らないんですが(苦笑))を古楽というるつぼに入れて、新しいものに作り替えています。そこが「ポップ」の所以なのかと。

Studio RAM (アーティスト公式)

Vita Nova『Laulu』

吉野裕司を中心とする不定形ユニット、Vita Novaのセカンドアルバム。ファーストアルバムの古楽色は薄まり、楽器の使用も最小限に抑えて「声」を前面に押し出しています。幾重にも重なる美声を心ゆくまで堪能できます。個人的には不協和音系コーラスもの(私の造語)の3.が好きだったりしますが。

Studio RAM (アーティスト公式)

Vita Nova『Vita Nova Remix by RAM3200』

 『Ancient Flower』『Laulu』の曲を自らリミックス。といいながらオリジナルっぽい曲も一部混じってそうな。
 アコースティック中心の原曲を、すっかりシンセ一色に染めています。Vita Novaなのにリコーダーの音がないよ(笑) ヴォーカルそのままにアレンジを変えた程度から、全パートをバラして再構成したものまで、リミックス具合はいろいろ。曲によっては、ヴォーカルすらパーツになってます。原曲のようなコーラスものや古楽インストを想像していると違和感あり。
 シンセ、テクノというと、Vita Novaではこの後に出てくる『SUZURO』がそうですが、それともまた違う。あっちはいわゆる歌ものになっているけど、こっちは本当に、ヘタするとインプロ(即興)?というぐらい自由に声や音をちりばめている。全体的に浮遊感のある曲調が心地よし。アンビエントとか好きな人にいいかも。
 以下個人的な経験。『Ancient Flower』『Laulu』を立て続けに聴いて、その流れでこのアルバムを聴いたもんだから、アコースティックじゃない、古楽じゃない、と違和感ありまくりでしばらく放置。でもしばらくたって聴いてみたらかなりいい。Vita Novaを意識せず聴けばよかったんだなと。
 そういえば、リミックスしたのは「RAM3200」とある。ほとんど吉野裕司本人とはいえ、わざわざ名義をかえたのはそういうことなのかも。と今さらながら思った。

Studio RAM (アーティスト公式)

Vita Nova『shiawase』

 5年ぶりのアルバム。前作のテクノ路線から一転してアコースティックに戻り、トラッド曲も交えながらの構成になっています。一部インスト曲もあり。(そっち方面の人には)めまいがしそうな豪華アーティスト参加はいつも通り。全体像を乱暴に言えば、『ancient flowers』の古楽色 + 『shinonome』の民族色、といった感じ、かな。
 まずバラエティ豊かな楽曲にびっくり。イギリスやノルウェーのトラッド、アフリカっぽい曲調(としか私には分からないけど)、教会音楽的なコーラスもあれば、南国テイストの曲もあり……よくこれだけあちこちから持ってきたなあという取り揃え方。かなり大胆にアレンジしているとはいえ(track3はそう書かれていないと『グリーンスリーブス』とは分からなかった(爆))。
 バラバラになりがちなそれらの曲を、民族楽器によるアレンジでうまくまとめているように思います。おなじみのリコーダーをはじめ、ブズーキ・マンドリン・アコーディオン……さらに名前も読めないような楽器まで、様々な音色が楽曲を彩ります。
 そしておなじみ女性ヴォーカル。澄んだ声が重なるアカペラコーラスもあれば、童女のようなほのぼの歌声もあり、荒ぶる魂系ヴォイスもあったりして、こちらもまたいろんなヴォーカルスタイルを聴かせてくれます。個人的ツボはやはり、track7-3の雄叫びコーラス(笑) こういうクセのある声が聴けるのがいいのですよ。きれいばっかりじゃなくて。
 とにかく今やりたいことをすべてぶち込んだ、という印象のアルバム。前4作のような全体の統一性はないけれど、このごった煮感にハマります。

Studio RAM (アーティスト公式)

上野洋子『SSS Simply Sing Songs』

 アイルランドやスコットランドの伝統曲をカバー。オリジナル曲2曲を含む。
 アルバムタイトル通りごくごくシンプルで、お得意の多重コーラスはほとんどなし。楽器も含め、極力音数を少なくしている印象。「得意技」をあえて禁じ手にしてやってみたかったのかなーと勝手な想像。
 その分、多彩なヴォーカルが堪能できます。しっとり染み入るような声もあれば、幼女のような愛らしい声もあり……ファンなら、普段トラッドを聴かない人でも楽しめるのでは。かくいう私も、収録曲の中で知っている曲は一つだけだし(爆)
 またオリジナル曲も美しく、個人的にはtrack3だけでもCD買った甲斐があったかも。
 それに、極力入れないようにしているとはいえ、やっぱり端々にコーラス(track4,track9-2)が。またアレンジも、フィドル(クレジットには「バイオリン」とあったけど)やホイッスルでアイリッシュの雰囲気満点の曲もあれば、ブルースのようなギターアレンジ(track2)、ハープに乾いた機械音?が不思議とマッチしてもの悲しいアレンジ(track10)なんかもあり、相変わらずやってくれるなーという感じ。
 『Puzzle』のような派手なコーラスワークを期待する人には向かないかな。歌姫の美声、そして地味ながらひと味違うアレンジを楽しめるアルバムだと思います。

uenoyoko (アーティスト公式)

Era『Three Colors of the Sky』

 バイオリンとギターのデュオ。メンバーそれぞれの活動はプログレのイメージが強かったので、試聴していい意味で裏切られた。

 前半はアップテンポで攻め、後半はややゆったり。たまにフィドルやスパニッシュギターのような演奏もあったり、そのほか随所にトラッド風味。うねり伸びるヴァイオリンと激しくかき鳴らされるギターが対峙したかと思うと、仲良くしっとり奏でられる曲もあり。昼下がりムードのまったり曲もいいけど、個人的にはやはり、荒々しい超絶技巧系のtrack5とかが好き。たった2つの楽器が持つ広がりと奥行きに感動。

壷井彰久/鬼怒無月Duo (試聴あり)

Yae『flowing to the sky』

 「古くから伝わる物語や民謡」をテーマにしたコンセプトアルバム。らしい。トラッドを交え全9曲。素朴な曲もあればプログレっぽいものもあるけど、不思議とバラバラな感じはしません。

 ゆるゆると伸びる声がとにかく気持ちいいです。全く力が入っていない(除くtrack4)し、ヴォーカルスタイルに特に際だった特徴があるわけでもないのに、何だろうこの存在感。おそらくフルオーケストラの中でも埋没しないと思う。クリスタルヴォイスとは別に、こういう静かに低く響く声も好きなのよ実は。歌詞なしのtrack6では、その声が一番堪能できるように思います。

 アレンジは、ギターやバイオリンに混じってマリンバやビブラフォン、果てはオタケビ(笑)まで多彩な楽器が少しずつ登場。1曲1曲は少数編成で、しかし演奏はいろいろ趣向を凝らしているというか。track1のアコーディオンにピアノやギターが折り重なっていく様は特に印象的です。

 無国籍トラッド、というのかな。エスニックとは違う、しかしどこか異国を思わせる雰囲気。試聴なしがつらいんですが、こういうヴォーカルやトラッドに興味あったらぜひ。

yaenet (アーティスト公式)

『BGM8』(無印良品)

 無印良品の店内BGMシリーズ、一時期ワールドミュージックでやっていたことがあって、その中のスウェーデントラディッショナル編。

 スウェーデン方面は初めて聴いたんだけど、アイリッシュに比べてやや素朴でどんよりしたバイオリンやフィドルの重なりが何かツボ。特にtrack6,7あたりが暗めで好みだ。とはいえ無印だから、トラッド的泥臭さはだいぶ薄まっているんだろうけど。

 参加メンバーも豪華。ガルマルナのヴォーカルとかヴェーゼンとか。これで税込1,050円。値段で聴くものじゃないとはいえ、どうしようか迷っている層には確実に響く値段。お試しにはいいと思う。

お店で流れているBGMについて “BGM-アノニマスの素晴らしさ” (シリーズの紹介など)
無印良品ネットストア[BGM8スエーデントラディッショナル] (試聴あり)

KOKIA『Fairy Dance』

 "KOKIA meets Ireland"ということで、全曲アイリッシュトラッド……かと思ったら、オリジナル曲あり歌謡曲ありといろいろで、ちょっとびっくり。しかし、アレンジはすべてコテコテのアイリッシュ。これが不思議とトラッドでない曲にも違和感なく、すんなり聴けてしまう。軽やかに舞うフィドル、いいよねー。

 個人的イチオシはやはり『調和』系のオリジナル曲、track1。朝靄の中、静かにわき上がるような多重コーラスに涙。track6の寂寥感も好き。track7は、おそらくアイリッシュアレンジでないとこういう展開にはならないだろうなーという点で面白い。純然たる?KOKIAファンとしては、いつもと毛色が違って若干戸惑うかもしれないけど、プラスアイリッシュも好きであればぜひに。

KOKIA|Fairy Dance ~KOKIA meets Ireland~|@Victor Entertainment (試聴可)

Loreena McKennitt『A Midwinter Night's Dream』

 過去のミニアルバム『A Winter Garden: Five Songs for the Season』収録の5曲に、新曲をプラスしたクリスマスアルバム。同じLoreenaの『To Drive the Cold Winter Away』みたいなのを想像していたら、いい意味で裏切られた。

 のっけからいつものLoreena節炸裂。track4とかハーディ・ガーディですよ。クリスマスにオリエンタル風味もこの人ならでは。あ、クリスマスっぽいなーという曲もあるけど、全体的にはあくまで「クリスマスをモチーフにしたLoreena McKennittのオリジナルアルバム」。大半はオリジナルじゃなくて伝統曲なのに(笑)

 とはいえ、いつもの荘厳な雰囲気やしっとりor高らかに歌い上げる曲に混じって、朗らかで楽しげなインストがあったりするのはやはり「クリスマス」だからかな。オンシーズンに聴きたい1枚。

Quinlan Road - Explore The Music - Mid Winter Night's Dream (レーベル公式、試聴あり)